「丸くはなれない」 〜BESSの家〜

「丸くはなれない」 〜BESSの家〜

代官山に立寄るたびに気になる場所があった。旧山手通り、蔦屋書店近くの一等地にある広大な住宅展示場。なんでこんな場所に住宅展示場が?という立地もさることながら、あまり見ないタイプのモデルハウスや、独特な雰囲気が気になってしかたなかった。

入り口の掲示板にこう書かれてある。『〜もし、お客様が都市型住宅に求める価値を第一にお考えであれば、残念ながらその意に添いかねます。』自然派個性住宅の名のもとに家づくりをしており、機能、性能を重視する一般的な都市住宅とは一線を価す、ということらしい。都会のど真ん中にあるのに、だ。

本来、住宅展示場は冷やかしも含め、来る者拒まずが基本だろう。集客数が売り上げに直結するビジネスだからだ。そんな業態の中、”分かる人だけに来て欲しい”という意思表示は、なかなかできるものでない。なんか他と違う、だけどとても気になる住宅メーカー、それが『BESS』だった。

『BESS』っていう住宅メーカーの仕事なんだけど・・。旧知のコピーライターから打診があった。断るわけがない。あの展示場に堂々と入れる。

『BESS』は1986年「ビッグフット」というブランド名で”ログハウス市場”に参入。短期間でシェアNO.1となり、その後ログハウス以外にもラインナップを拡充。2008年ブランド名を『BESS』に変更し、現在に至るまで累計13,000棟以上を販売している、知る人ぞ知る住宅ブランドだった。

最大の特徴はその商品ラインナップ。バックミンスター・フラー博士の『ジオデシック理論』に基づいた”ドームハウス”を筆頭に、程々の家・ワンダーデバイス・カントリーログハウスなど、類を見ない個性的な木造住宅の数々。その住宅展示場は、居るだけで楽しめるワンダーランド的空間だった。

他と違うのは商品だけではなかった。「マイナーで異端であること」を自ら標榜するブランドフィロソフィー。「完成した家を手に入れる満足より、実際の暮らしを通じて得られる満足を追求する」「家は道具」「自然機能重視」「面白生活」「経年美化」という考え方。「出かけたくなる家」にいたってはフツー「帰りたくなる家だろ!」とつっこみを入れたいぐらい、独自の思想とスタイルを貫いているメーカーだった。

創業以来、基本的な考え方は変わらずに来たが、時代が変化した。昨今、大きな潮流となりつつある、自然回帰、ECO発想、スローライフ等のライフスタイルは『BESS』が当初から唱え続けてきたコンセプトそのものだった。時代がBESSに追いついてきた、ともいえる。

「”住宅”という分野において、いつの間にか時代の先端にいた」「累計棟数も増え、もはや”マイナーで異端”という差別化はそぐわなくなってきた」「これからは”異端”の自覚をもって門戸を開いていきたい」「ついては、新しいブランド広告を展開することにした」これが、我々が呼ばれた理由だった。

現在、『BESS』の立ち位置を明快に表した”『住む』より『楽しむ』”というタグラインの元、”言葉”を表現のど真ん中に置く、というフレームで広告を展開している。それは『BESS』が”考え方”と”言葉”を、とても大切にしているからにほかならない。

新コミュニケーション開始以来、販売数は順調に推移し、次のフェーズの準備に取りかかっていた矢先だった。2014年1月、言葉の担い手が突然いなくなってしまった。

亡くなられた鵜久森徹さんは、コピーライターとして真摯に”言葉”と対峙していました。彼の最後のキャッチコピーはBESSのための言葉ですが、彼の生き方そのものだったのかもしれません。そして、残された作り手の僕らにも深く突き刺さるメッセージです。

『丸くはなれない。』

言葉は生きているよ、鵜久森。





CD,C/Tohru Ugumori
P/Mikio Hasui
AD/Eiki Hidaka