『My Hometown』 ~日向屋ブランドブック~

『My Hometown』 ~日向屋ブランドブック~

父が小学校教諭となりはじめて赴任したのが、宮崎県東臼杵郡門川町立門川小学校だった。当時、学校の図書室で司書をしていたのが母で、父の一目惚れだったと聞く。短いつき合いの末電撃結婚。電撃的に産まれたのが僕だった。

三歳まで過ごした門川町の記憶はほぼなく、そこに居たという証は父が撮影した数少ないモノクロ写真にしかないのだが、なぜか、家の近所に流れていた美しい小川にたくさんのメダカが泳いでいたことだけは鮮明に覚えている。

地方公務員である小学校の教諭は転勤が常で、その後宮崎県内を転々とするわけだが、それから生誕の地、門川町を訪れることはなかった。

「新しい会社案内を作りたい、お願いできますか?」パッケージデザインなどを手がけている「日向屋」の請関さんから連絡があった。
日向屋は1995年に門川町で創業したレトルト食品製造メーカー。鶏手羽商品を中心に、「鶏炭火焼」や「肉巻きおにぎり」など数多くのヒット商品を送り出してきた。
2021年には宮崎県の成長期待企業にも認定され、今や、全国のスーパーやコンビニエンスストアで日向屋商品を手にすることができる。

以前制作した、宮崎県のブランドスローガン「日本のひなた宮崎県」の考え方に共鳴していただき、「日向屋商品にロゴを使用したい、ついでに新商品のパッケージもお願いできないか?」と相談を受けた。
以来、「手羽とオリーブ」「黄金のうまみ手羽」などネーミングを含め、いくつかの商品パッケージを手がけることになり、会社のブランディングやスローガン開発まで携わるようになった。

会社案内は工場新設など新しい情報を盛り込んだリニューアルを望まれていたが、会社の実績や設備を誇るだけでは意味がない。
「つくるならブランドブックにしませんか?」と提案した。会社の案内ではなく「会社の人柄」が伝わる一冊にまとめませんかと。

実際、創業以来ずっとおいしさを追求してきたひたむきさや、社長やブランディング担当の請関さん、社員の皆さんの人となりをブックの佇まいに表現できれば十分に日向屋の魅力を伝えられるという確信があった。
そして、なにより、海と山に囲まれた自然豊かな街、門川町に会社を構えているという彼らの誇りと愛着が伝えられれば、誰にも似ていない日向屋オリジンのブランドブックになると考えた。このブックのもう一つの主役は、門川町だ。

今年の夏は毎週のように台風が襲来し撮影も危ぶまれたが、父の後を追うように四月に他界した母がそうさせたのか、ロケを行った数日間は奇跡的に青い空が広がった。
二人が出会った門川町は、とても美しかった。

 

日向屋ブランドブック 表紙

日向屋ブランドブック「すべては美味しさのために」。 大きさは商品のパッケージサイズと同じにした。

 

CD, AD,C/HIDAKA EIKI
D/MIURA YUKA
C/TASHIRO KURUMI
P/WATANABE KAZUHIKO