『農の都へ』 ~都農町町制施行100周年~

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『農の都へ』 ~都農町町制施行100周年~

宮崎は、遠かった。
福岡の大学に通っていた当時、帰省しようにもとにかく遠い。空路では所要時間40分程度なのだが、慢性的な金欠学生にとって飛行機は空想の乗り物であり、結果鉄道しか選択肢がなかった。
鹿児島本線に乗って熊本八代から九州横断して帰るか、大分周りの日豊本線を使うか。どちらにせよ自宅に戻るのに軽く5時間は要した。学生時代にほとんど帰省しなかったのはその遠さも理由の一つだった。

上京して戸惑ったことの一つが、宮崎出身と自己紹介すると「九州ね」と大雑把に一括りにされてしまうことだった。宮崎と福岡が、渋谷区と杉並区ぐらいの距離感イメージを持って語られる。そんな簡単に行き来はできないのに。
九州は想像以上に広大であり、宮崎はその地理的な事情で、物流的にも文化的にも他県と一線を画す陸の孤島だった。

閉ざされた環境が独自の進化をたどるのは、ガラパゴス諸島の例をあげるまでもない。
宮崎は南九州太平洋側という地の利と隔絶された環境の中、いい意味で独自の風土と文化を築いてきた。その典型のひとつが農業だ。

温暖多照な条件を活かし、それぞれの土地と向き合いながら知恵と工夫を重ね、農産物出荷額全国5位という、全国有数の食糧供給県となっている。
「日本のひなた」なだけに、ノンビリとした県民性ではあるが、こと農業に関しては先人たちのチャレンジ精神と努力が今につながっているのだと思う。

そんな風土の中で、無謀にもワイン造りに挑戦した町があった。人口約1万人の小さな町、宮崎県児湯郡都農町。チャレンジ精神にもほどがある。

国産ワインのほとんどは、甲州などの盆地で生産されている。夜の気温が低く、降水量が少ない環境がぶどうの生産に適しているからだ。
都農町は年間降雨量4000ミリ以上、世界のぶどう産地の5~8倍もの雨が降り、収穫期には台風が襲来し、火山灰質のミネラル分不足の土壌など、ぶどうの栽培にはまったく適さない悪条件だらけの土地だった。

終戦直後、10代の若手農家であった永友百二さんが、「田んぼに木を植えるなんて・・」という周囲の非難にもめげず、土壌改良や防風林植樹に着手し、1953年に県内で初めて巨峰の植え付けに成功した。以来、町内のぶどう農家は増え続け、1980年代には300軒を超えたという。

その後、供給過多になった際の生産調整や、町としての産業化を目指し、「世界に通用するワインをつくる」という目標のもと、都農ワイナリーを建設。幾多の苦難を乗り越え、1996年ロゼと赤ワイン3万本を初出荷。瞬く間に完売した。

現在、都農ワインは年間20万本を生産し、世界のワイン100選にも2度選ばれ、アジア最大のワイン品評会で金賞を受賞するなど、日本を代表するワイナリーのひとつとなった。

 
「来年8月1日、都農町が町政施行100周年を迎える。ついてはアドバイザーになってくれないか?」県庁から都農町に出向していた甲斐慎一郎さんから相談を受けた。困った時によく相談事を無茶振りされる間柄。

提案したのは、ただの100周年祝賀に終わらせず、次の100年につながる宣言にしようということだった。同時にステートメントとロゴマークを提示した。

 

農の都へ。

農という文字には、
人が生きていくうえで必要なモノをつくる、
という意味があります。

都農町は100年前から農と共にありました。
そしてこれからも、農業を真ん中に、
あらゆる産業を通じて、
ココロとカラダの豊かさをつくる
まちになっていきます。

これまでの100年を、
これからの100年へ。
都農町は、農の都を目指します。

TSUNO TOWN 100th Anniversary Logo

 
ロゴの表記は100周年としなかった。これからの100年への宣言だからだ。青と緑のマークは、都農ワイナリーから見下ろした都農町の全景をイメージした。
初めてワイナリーを訪れた時、感動したのはワインの味ではなく、ワイナリーの施設でもなく、眼下に広がる緑の大地と空と海のコントラストだった。

宮崎は風光明媚の宝庫だ。海岸線はどこも美しい。しかし、都農町の緑に囲まれた街並みと雄大な日向灘を望む展望は、どの土地よりも豊かで美しかった。

永友百二さんも同じ風景を見ていたはずだ。だからこそ、無謀かもしれないけれど、ここでぶどうを作れると信じたのではないか?

今年の8月1日、宮崎日日新聞に100周年広告を出稿した。
もちろん周年告知ではあるけれど、それ以上に、都農町の方々に、この町で生きる誇りを持ってもらいたいという想いを込めた。

本当の豊かさと、日本の未来の希望はこんな町にこそあると思うからだ。

8月1日宮崎日日新聞掲載「都農町町政施行100周年」広告。都農ワイナリーから撮影。

CD,AD,C/Eiki Hidaka
D/Yuka Miura
P/Kazuhiko Watanabe